「哲学の歴史(西洋思想史)」を学ぶための「哲学史」本の良書を紹介していく。
哲学の名著を読み進めていこうとする場合にも、生きている時代が違い、共有している常識的な感覚が違うので、「時代的な位置づけ」の感覚なしに、まともに読んで理解することは難しい。
ざっくりとでも「哲学史」を学んでおけば、哲学の勉強はより捗るようになるだろう。
なお、哲学のまったくの初心者の方は、最初に「哲学を学びたい初心者のためのおすすめ入門書」記事を読んだほうがいいと思う。
この記事で紹介するのは、それよりもやや踏み込んだ「哲学史」の入門書・解説書なので、ある程度は哲学を知っている人向けだ。
若い読者のための哲学史 (Yale University Press Little Histor)
翻訳 :月沢李歌子
出版社:すばる舎
発売日:2018年4月26日
世界中で人気のある「若い読者のため(Yale University Press)」シリーズの「哲学史」本。
哲学に興味を持ち始めた大学生くらいを対象に、堅実で楽しく学術的な知識を学ぶ。
主題の抜き出し方が非常にキャッチーで、軽いノリで勉強できる一方、内容はなかなかに堅実的。
短くまとまっていながら、網羅性も高く、「哲学史」の初心者向けの入門書としては良い出来。
まだ難しい本に苦手意識が強い人は、本書を手にとってみるといいだろう。
学ぶことに年齢は関係ない。「若くない読者」にもおすすめしたい一冊。
はじめての哲学史―強く深く考えるために
出版社:有斐閣
発売日:1988年6月1日
人文系の教科書的なテクストに定評のある「有斐閣」が出している、哲学入門の教科書。
出版された当初は「画期的」とも呼ばれた哲学の教科書的テクストであり、その価値は今も衰えていない。
何度も版を重ねて発売され続けているロングセラーでもある。
「日本」は西洋哲学とは遠い地であるが、著者&編集の「竹田青嗣」氏は、日本人の哲学のレベルを一気に引き上げる役割を担ったと言えるだろう。
教科書は客観的な記述を重視するものではあれど、「竹田青嗣」氏と「西研」氏は、どちらかと言えば「わかりやすさ」と「原理的な考え方」のほうにウェイトを置いている。もちろん客観的記述にも十分配慮されてはいるだろうが、教科書にありがちな「無味乾燥さ」から程遠いので、新書や小説などを読むようにグイグイ読み進めることができるだろう。
読みやすく、網羅的で、しっかりと知識が身になる構成。
内容に対して批判がないわけではないが、哲学の解説書として、最高の出来であると個人的には評価したい。日本語で哲学を勉強しようとする人の指針になる一冊。
西洋思想のあゆみ―ロゴスの諸相
出版社:有斐閣
発売日:1993年10月1日
大学の教科書としても使われることが多いであろう、西洋思想、採用哲学の流れを俯瞰する一冊。
堅実な内容だが、面白みがあまりない書籍ではある。
哲学は、教科書的に語ろうとすると、意義や魅力が半減してしまうという性質もあるので、我の強い著者のものを読んだほうが面白く読めることは間違いない。そして、長い時間をかけて勉強をする以上、「読んでいて面白い」というのは非常に重要なことである。
とは言え、本書のような仕事に価値がないわけでは決してない。
統一的、体系的な「まとめ・教科書」の価値は、色んな本を読めば読むほどわかってくる。
古典などに当たって哲学を勉強しているときに、教科書的な本が一冊手元にあると、そのありがたみを理解できるだろう。
西洋哲学史
出版社:講談社
発売日:1987年4月28日
比較的手軽に読みやすい西洋哲学史のテキストの中で、鉄板とも言える一冊。
美学と中世哲学を研究する教授による、淡々としながらも哲学愛に溢れた哲学解説。
「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」という5つの区分で、しっかり区切られているのが特徴で、一冊に収まっていて無駄がなく、美しささえ感じる構成。
ウェイトとしては古い時代のほうに重点が置かれていて、カント、ヘーゲル、ニーチェは「近代」、それ以降が「現代」に収められている。近現代の哲学史を期待して読むと記述の少なさに落胆するかもしれない。
近世哲学までの哲学史の本として認識したほうがミスマッチは少ないだろう。
一冊読めば、大まかな流れを追うことができる、とても優れた「哲学史」解説本。ただ、まったく知識のない人がスラスラ読めるわけではない。
西洋哲学史
出版社:岩波書店
発売日:2006年4月20日
岩波文庫の『西洋哲学史』で、『古代から中世へ』と『近代から現代へ』の2冊で1冊と考えたほうが良い。
上の「今道友信」氏による『西洋哲学史』が、古代のほうにウェイトを置いたものだとするなら、こちらの「熊野純彦」氏による『西洋哲学史』は、どちらかと言えば近代から現代のほうにウェイトを置いている。
哲学史の本に関しては、それぞれ違う著者がどういう見方をしてどういう編集をしているか、を比較することで知識や見識が定着していったりするので、何冊も読むことは絶対に無駄にはならない。
哲学の歴史
出版社:中央公論新社
発売日:2008年2月1日(第1巻)
中央公論が完成させた大仕事で、全12巻もある『哲学の歴史』。
それぞれのトピックについて、別々の著者が、各時代の哲学をまとめている。
内容の詳しさ、重厚さで言えば、他の追随を許さない。
一方で、1冊の価格が高めで、全巻揃えるとそれなりのお値段はする。
長大な文量があり、頭から読もうとしても挫折する可能性が高い。
ただ、これだけの仕事が日本語で出版されているというのは非常にありがたいことでもあると思う。
ヨーロッパ思想入門
出版社:岩波書店
発売日:2003年7月19日
西洋思想の本だが、上で紹介してきた「西洋哲学史」の本が、「哲学(原理的な思考)」の観点から西洋思想を俯瞰しているのに対して、本書は「信仰、文学、美学」の視点から西洋思想を説明しようとしている。
「ギリシャ哲学」から「ヨーロッパ思想」への接続を説明するのは「哲学史」のスタンダードだが、本書では「ヘブライ信仰(聖書、キリスト教)」との関わりにウェイトを置いて説明している。
「聖書」の解説本にもなっていて、「西洋の価値観」について非常に多くの洞察を得られる。
「哲学」を学びたい場合でも、読んで損はない良書。一般的な「西洋哲学史」と合わせて読みたい。
「岩波ジュニア新書」なだけあって、他の哲学史本よりもずっと読みやすい。
図説・標準 哲学史
出版社:新書館
発売日:2008年1月1日
「哲学史」をビジュアル重視で解説。
読みやすく、一覧性が高い。
哲学のガイドマップにもなっているし、それぞれの哲学者にしっかりと説明が割かれている。
この手の試みには薄っぺらいものが多い印象だが、本書はちゃんとした内容なので、哲学の勉強を志す人におすすめできる。
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