哲学の「解説本」のおすすめを紹介する

哲学の「解説本」のおすすめを紹介する。

哲学を学ぶ上で、原文に挑戦したいことは言うまでもないが、解説書の助けを借りることは恥ずかしいことでも間違ったことでも決してない。

日本語で読める哲学の解説書は非常に充実している。哲学書の翻訳に加えて、素晴らしい解説書を多く生み出してくれた先人たちの仕事に、感謝しなければならない。

解説本は、それ自体でも勉強になる。良質なものを厳選して紹介しているので、よければ参考にしていってもらいたい。

竹田教授の哲学講義21講

著者 :竹田青嗣
出版社:みやび出版
発売日:2011年3月1日

まずは、哲学の主要な概念を俯瞰的に学べる良書の紹介。

「21講」とあるが、ひとつひとつの講義がかなりのボリュームで、全体で新書2冊分の文量はある。

レベルはそれほど低くなく、ある程度は哲学に関心のある人や、入門書や哲学史本を一冊は読み終えた人向け。

「入門書を読んで、より深く哲学を学びたくなったのだけど、次のステップに行くための本を探している」という人や、「一度哲学をやっていたことがあるのだけど、手短に復習してみたい」という人には、非常におすすめできる哲学の講義集。

これ一冊でとても勉強になるし、何度も読み返す価値がある。

 

プラトンの哲学

著者 :藤沢令夫
出版社:岩波書店
発売日:1998年1月20日

プラトンは、古典の中では非常に読みやすい内容のものばかりなのだが、やはり「事前学習」はしておいたほうが良い。

他人の「解釈」を学ぶ必要はないが、「それが書かれた状況や時代背景」などは、ほとんど学習が必須のものと言ってもよい。「当時の常識的な感覚」を知らずに、現代的な価値観を念頭に読んでいても、理解できないことや、単に疑問に思うだけでスルーしてしまう部分がたくさんあるからだ。

本書は、ギリシャ哲学の研究者であり、プラトン研究の第一人者による岩波の解説書だが、ありがちな誤解を解き、的確に環境を整備し、読者に古典との対話の道を開くという、素晴らしい仕事をしている。

本書単体で読んでも勉強になるし、当然ながらプラトンを読み始めたいすべての日本人のおすすめできる。

このような解説本が日本語で書かれているという先人たちの仕事に感謝しなければならない。

 

プラトン入門

著者 :竹田青嗣
出版社:筑摩書房
発売日:2015年6月10日

こちらは、プラトンの解説書ではあるが、上で紹介した堅実的なものとは風合いが違って、広い射程で捉えた読み方を提示している。

現代の視点から、「プラトンの哲学がどのような重要な意味を持っていて、どういう理由で誤解されているが、実はどのような側面が見いだせるのか」、というようなことを、プラトン以降の様々な哲学者の「解釈」なども含めて解説している。

「現代から考えるプラトン」という感じで、古典を再解釈することの面白さと意義深さを体感できる一冊となっている。

知的興奮に溢れた本で、純粋に読んでいて面白い。

ただ、面白すぎるが故に、著者の「解釈」に引っ張られてしまう危険性もある。

最初は楽しんで読むのが何より重要だが、鮮やか過ぎる解釈には危険も伴うことに留意しながら読み進めたい。

 

アリストテレス

著者 :今道友信
出版社:講談社
発売日:2004年5月11日

『西洋哲学史(講談社学術文庫)』(哲学史本の記事で紹介した)を執筆した「今道友信」の著書で、アリストテレス愛に溢れた一冊。

古代ギリシャや西洋哲学全般における幅広い知識を持ちながら、アリストテレスを解説し、その功績を位置づけている。

「万学の祖」として、プラトンと並ぶアリストテレスだが、実際に書かれたものを読み進めるのはかなりのストレスがかかる。当時の常識的な知識や感性がなければ読み進めにくいからだ。

アリストテレスに取り組む前に、本書を読む意義は十分にある。

贅沢かつ堅実なアリストテレスの入門書&解説書であり、著者の知的情熱に心打たれる。

アリストテレスを読むつもりのない人にもおすすめしたいほど、優れた仕事が為されている著作である。

 

スピノザの世界

著者 :上野修
出版社:講談社
発売日:2005年4月20日

「スピノザ」は、17世紀のオランダの哲学者で、「この世のあらゆるものは神に由来する」という「汎神論」で知られている。

今の常識からすれば理解しがたい「スピノザ」の解説書だからこそ、得られるものは非常に多いだろう。

本書は非常に優れた解説書で、近い時代の哲学者であるデカルトとの関係、ホッブズとの関係、カントやヘーゲルに続くドイツ観念論への展開、アルチュセール、ドゥルーズ、レヴィナスといった現代の哲学者との関係など、広い視野で解説がされている。

スピノザを軸に、西洋哲学の様々な思想的展開を巡る、素晴らしい哲学の解説書。

西洋哲学のわかりにくいところに手が届くので、他のあらゆる西洋哲学に手を出すときにも役に立つ視点が詰まっている。スピノザに特別興味がない人でも読む価値はある。

 

ドイツ観念論 カント・フィヒテ・シェリング・ヘーゲル

著者 :村岡晋一
出版社:講談社
発売日:2012年8月10日

哲学の難所の一つである、「ドイツ観念論」の本格的な解説書。

カント、フィヒテ、シュリング、ヘーゲルという流れを持つ、ドイツ観念論の核心を掴むための一冊。

哲学者を跨いで共通の世界観を説明する解説書は、時代が離れた今から哲学を読み解こうとする上では、非常にありがたい。

難解な理論に対して、平易かつ論理的な説明がされていて、知的で壮大な流れに感動する。

カントやヘーゲルに立ち向かいたい人、一度は挑戦したけど挫折してしまった人におすすめしたい一冊。

 

カント入門

著者 :石川文康
出版社:筑摩書房
発売日:1995年5月1日

「ちくま新書」の「入門シリーズ」は、哲学者それぞれのものがあるが、どれもクオリティが高くおすすめできる。

本書は、「カント」が生きた時代、問題意識、人物像、歴史的な受け入れられ方について、専門家により、簡潔で適切な解説がされている。

解説書ですら難解なのがカントの哲学なのだが、本書があれば『純粋理性批判』などの著作にも挑戦しやすくなるだろう。

概要を掴むために、本書単体として読むのもいいと思う。カント哲学の内容をなんとなくでも把握しておかなければ、のちに書かれた哲学の読解にも支障が出てくる。

 

新しいヘーゲル

著者 :長谷川宏
出版社:講談社
発売日:1997年5月20日

ヘーゲルの翻訳者が、ヘーゲルを語る解説書。

読解のための手引きをしているというよりは、「ヘーゲル哲学とはどのようなものかを?」を一般人でもわかるように解説している。

「弁証法」、「精神の変遷」、ヘーゲルの語る「歴史」といった、日本人に馴染みのない西洋哲学の真髄を、わかりやすく語っている。

著者自身によって、ヘーゲルへの批判検討を加えているのも面白い。

周辺情報や時代背景について詳しく述べているので、本書単体でもヨーロッパ哲学の勉強になる。

訳者が解説書を書くというのはよくあることだが、本書はその中でも質が高く有益。

 

ニーチェ入門

著者 :竹田青嗣
出版社:筑摩書房
発売日:1994年9月1日

「誤解されがち」「勝手に変な解釈されがち」なニーチェの思想を、核心を掴むやり方で明快に解説する。

哲学の原理的思考から、これほど人を怖れさせ、勇気づけてくれるような思想が生まれるのかと、驚かされるほどの一冊。

ニーチェのすごさ、力強さ、特異さがよくわかる。

思想を読み解き、解説することの、スリリングな知的興奮に溢れた内容。

体系的な哲学にあまり興味がない人にもおすすめしたいほど、読んでいて面白い!

興味を抱かせ、その分野に引き込むための「入門書」として、最高の出来だと思う。

 

これが現象学だ

著者 :谷徹
出版社:講談社
発売日:2002年11月15日

フッサール現象学のわかりやすい解説書。

非常に難解で知られる「現象学」だが、本書はできる限り易しく書かれている(それでも難しいが)。

特にフッサールは、日本語の原書も手軽には手に入らず、とっ散らかっている印象で、いきなり読んでも混乱する可能性が非常に高い。

フッサールはもちろん、後に続くハイデガー、メルロ・ポンティ、エマニュエル・レヴィナスなどの著作を読む上でも、本書で「現象学」の概要を押さえておいたほうがいいだろう。

あまりに難解な西洋哲学の真髄に迫ろうとする、迫真の著書。

入門書として書かれているが、ある程度の哲学の蓄積がないと読むのは難しい。

 

反哲学入門

著者 :木田元
出版社:新潮社
発売日:2010年5月28日

ハイデガーやフッサールの翻訳で知られる「木田元」による、「反哲学」の入門書。

プラトンからヘーゲルに続く流れに対して、ニーチェ以降の哲学を「反哲学」とし、最終的にハイデガーに言及する。

哲学史を俯瞰するような、「反哲学」の解説本だ。

著者の解釈とパーソナリティが前面に出た本ではあれど、ハイデガーまで続く一つの流れを把握することができる。

著者の人柄がにじみ出る語り口で、裏話なども面白い。日本随一の哲学家による、哲学へのワクワク感と憧れを育てることができる一冊。

比較的肩の力を抜いて読める内容で、フッサールやハイデガーの取り組むための肩慣らしや、復習として読むのもいい。

 

ハイデガー『存在と時間』入門

著者 :轟孝夫
出版社:講談社
発売日:2017年7月19日

「ハイデガー入門」は、日本語でも数多く出ているが、本書は、出版された時期も新しく、要点が非常にまとまっていて読みやすい。

読みやすくリーズナブルな新書でありながらも、ハイデガーを一心に研究してきた研究者による渾身の一冊。

原文の章立てに忠実に読み進んでいき、日本人でも理解しやすいような配慮が光る。

また、現代のハイデガー研究の成果と知見をしっかり取り入れた上での解説である。

20世紀哲学の「ラスボス」的な著書であるハイデガーの『存在と時間』だが、本書のような解説書の助けは、ドイツ語で読み進めることの難しい日本人にとって非常にありがたい。

 

スポンサーリンク

コメントを残す