村上春樹の本は、普通に出版されているものはほぼ全部読んでいる。
「村上春樹を最も過小評価しているのは日本人」だと思う。それくらいハルキ・ムラカミは、世界各国で圧倒的な人気を得ている現代作家なのだ。
今回は、個人的にすごいと思っているおすすめを、ランキング形式で紹介していく。村上春樹のおすすめ本を探している人は、参考にしていってほしい。
目次
第10位『風の歌を聴け』
群像新人賞を受賞した、村上春樹のデビュー作。
短く、実験的で、文章を楽しむために書かれたような小説。今から読み返せば、たしかに村上春樹の原点はここにあると感じる。
著者自慢の文体の軽やかさに加え、架空の小説家「デレク・ハートフィールド」を持ち出すところなど、斬新な工夫がところどころに光る。
村上春樹自身は、本人としては未熟な内容と考えているからか、本書の海外翻訳を許していないらしい。村上春樹のデビュー作を読めるのは日本語だけなのだ。
すぐに読み終わるし、「村上春樹の文体」が凝縮されているので、手っ取り早く村上春樹の文章を知りたい人におすすめ。
第9位『羊をめぐる冒険』
村上春樹の3作目にして、初の長編小説。
バーの仕事を辞めて、北海道まで取材に行った。本作の執筆を皮切りに、本格的な小説家の道を歩みだした。
直接的な繋がりはないが、処女作『風の歌を聴け』、2作目『1973年のピンボール』、そして本作『羊をめぐる冒険』と、ゆるい3部作になっている。
単体でも問題なく読めるのだが、順番に読んでいったほうが感動できるのでおすすめだ。
類を見ない冒険物語で、不思議な文章の力によってグイグイと読み進めてしまう。
「空前絶後の文学」というくらいのインパクトがあった。いまだに誰も真似ができない、独自の村上ワールドが展開されている。
第8位『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです 村上春樹インタビュー集1997-2011』
村上春樹は、公の場所にあまり積極的に顔を出さない作家だが、そんな彼の14年分のインタビュー集が本書。
単なるインタビュー集ではあれど、一冊の本として十分に読みごたえのある内容になっている。
村上春樹の人柄がよくわかり、多くの人が、読み進めていくうちに彼に好感を持ってしまうだろう。
作品論から取り留めのない素朴なことまで、様々なことが語られているが、村上春樹の視点の鋭さ、底の見えない恐ろしさを感じる。
小説好きや作家を志す人のみならず、創作活動に取り組む人や、仕事に対して真面目な人であれば、必ずや強く感銘を受けるだろう。
そんじょそこらの自己啓発本やビジネス本とは比べ物にならないくらいの刺激を得られる、一流の人間に対してのインタビュー集。
第7位『カンガルー日和』
センスありすぎの、最高の短編集。
掌編とも言うべき、18のショート・ストーリーが詰まっている。
短編集は文章力や構成の実力がはっきり出るというが、その点で言っても村上春樹は凄すぎる!
短く、サラッと読めるのに、とても印象深く、いつまでも記憶に残るエピソードの数々。
長い文章が苦手という人には、真っ先にこの短編集をおすすめしたい。短編でも十分に魅力が伝わる。
第6位『国境の南、太陽の西』
個人的に、もっとも心に染みる作品かもしれない。
中年の男女を描く恋愛小説。これぞ「文学」という感じがする。
超常現象などは起こらず、エモーショナルなイメージとリアリズムで進行していくが、心地よいジャズを聴いているような文章のテンポで、何度読み返してもエモい!
人生の息苦しさ、恋愛の息苦しさを書いた、中年の恋愛ストーリーとしては王道とも言える内容だが、やっぱり村上春樹はすごい。
「どうして文章によってこれほど美しいイメージを描けるのだろう?」という描写がいくつもある。
ハルキ・ムラカミが世界的な作家になるのもよくわかる、普遍性のある文章の力。
第5位『走ることについて語るときに僕の語ること』
村上春樹は、作家であり、ランナーとしても知られている。
マラソンで優れた記憶を出しているからではなく、本書などの影響でランナーとして認知されているのだ。
海外のインテリ層でも、村上春樹の影響でジョギングを始めた人がけっこういるらしい。
村上春樹は、小説家になる前はバーで働いていて、一日に何本も煙草を吸い、かなり不健康な生活をしていたそうだ。30歳を過ぎて、専業作家になることを決心してから、ジョギングを始めた。
その後、「走ること」にのめり込んで、フルマラソンに出たり、100キロを走る「ウルトラマラソン」に出場したりする経緯と体験が語られている。
「走ること」と「小説を書くこと」についての素朴なエッセイだが、読ませる文章は流石だ。
本書を読めば、君もランナーになりたくなること間違いなし!
村上春樹の小説はだめという人でも、「エッセイなら好き」という人もけっこう多い。個人的には小説が素晴らしいと思うが、エッセイなら好きと言いたくなる人の気持ちもわからなくはない。小説を読んで気に入らなかったことのある人も、騙されたと思ってこのエッセイを読んでみてほしい。
第4位『海辺のカフカ』
村上春樹の小説の主人公は、中年や大人の男が多いが、本作『海辺のカフカ』は15歳の少年が主人公だ。
家出を試みる15歳の少年「カフカ」のシーンから物語が始まる。読者を物語に引き込んでいくような、吸引力のある作品だ。
猫と会話をすることができる「ナカタさん」など、印象的なキャラクターもよく出てくる。
やや衒学的なシーンが多く、全体として散漫な印象にも感じるのだが、村上作品の中でも読みやすく、わかりやすいほうだと思う。登場人物の脈絡のない会話も興味深く読み進めることができるし、村上春樹の何気ない文章力が本当にすごい。
15歳の少年の切実な思いと、ナカタさんの哀しくもユーモラスな世界が交錯する。
かつて15歳だった少女の幽霊など、現実に侵食してくる象徴のイメージがあまりに美しい。
中学生や高校生くらいの多感な時期に読んでほしい作品。
第3位『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』
狐につままれたような印象を受けやすい村上春樹の小説の中で、「最もわかりやすい面白さ」があるのが本書だと思う。万人受けしやすい内容で、初めて村上春樹を読む、という人にもおすすめできる。
比較的初期に書かれた長編で、2つの世界を行き来する「村上ワールド」を確立した作品。
独特で、印象的で、クールな文体は流石だが、文学に対する壮大な野心を感じる内容でもある。
個々のエピソードも、あらすじも、すべて面白く、また単なるエンターテイメントには絶対に出せない「深み」をも湛えている。
村上春樹のすごさを文句なしに体感できる。
第2位『ノルウェイの森』
村上春樹の小説の中では、「やや特殊な作品」という位置づけがされやすい本書だが、個人的には「これこそが村上春樹」という感じがする。
2つの世界が交錯しながら進行する「村上ワールド」ではなく、どこまでもリアリズムで書かれている。
主人公は大学生で、おそらく村上春樹が通っていた早稲田大学の学生だろう。どれくらいまで自伝的な要素が含まれているかはわからない。
著者本人が、本書に対して「100パーセントの恋愛小説」というキャッチコピーを書いた。
これが好きかどうかで、村上春樹が好きかどうかが別れると思う。
本書が心に染みないのであれば、あまり村上春樹を読む必要はないかもしれない。それくらい「村上春樹」が詰まっている、渾身の一作。
時代の空気と、ビートルズの旋律が浮かんでくるような、繊細で暖かく、悲しく美しい作品。
第1位『ねじまき鳥クロニクル』
村上春樹の長編の中では、もしかしたら一番地味なのが、この『ねじまき鳥クロニクル』かもしれない。
たしかに、わかりやすい山場やストーリー展開は、他と比べると希薄かもしれない。
だが、「村上春樹らしさ」が一番色濃く表れているのが、この小説だと思う。
本当に優れた本は、その魅力を言語化すること自体が、一つの困難な仕事になってしまう。本書はそういう作品だ。
語り、比喩、イメージによる、本質的な文章の力を感じる作品。「文章の中に入り込んでいく」感覚を味わえる、テキストだからこその壮大な冒険。
失踪した猫、井戸の底、ノモンハン……たしかに、わかりやすい「面白さ」はない。それでも、個人的には、本書を村上春樹のベストに位置づけたい。
紹介は以上になる。
正直、書いていて「10作だけじゃ収まりきらない!」という気持ちが強かったが、あんまり長々と紹介しても仕方がないので10作までにしておいた。気になったものがあったらぜひ読んでみてほしい。
なお、当ブログでは、村上春樹以外の「海外の現代文学の作家のおすすめ小説」も紹介しているので、よかったら以下の記事も参考にしてほしい。
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