「高野秀行(たかのひでゆき)」というノンフィクション作家がいる。
自分は彼の著作が大好きで、出版されているものはだいたい読んでる。素晴らしい人生の先輩として、新刊が出るたびに買うことにしている。
本当におすすめの作家で、めちゃくちゃ面白いので、ノンフィクション本をあまり読んだことがないという人も、この機会にぜひ知ってほしい。
高野秀行とはどんな人物か?
高野秀行は、1966年10月21日生まれのノンフィクション作家。
早稲田大学の仏文科を出ていて、学生時代は「早稲田大学探検部」に所属していた。
誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く
をモットーとしている。(公式サイトより)
やばいところに冒険に行ったり、自分で決めたテーマに沿って旅を始めたりして、それをノンフィクションの探検記として発売している。
30冊を超える著作があり、ノンフィクションといっても、「辺境を旅する冒険記」、「UMA(未確認生物)を追い求めるもの」、「異文化について考察するもの」など、バリエーションは豊富だ。
また、ノンフィクション体験記以外にも、エッセイや小説なども出している。
TBSの「クレイジージャーニー」という人気テレビ番組に出演したこともある。
高野秀行の「すごさ」を解説
未開の辺境や危険な地帯に突撃し、ノンフィクション冒険記を書いているというと、「行動力」と「度胸」がある人なんだなあ、というイメージを持つ人が多いだろうが、それ以上に、
- 語学力
- 文章力
- コミュニケーション力
が高い。
ただ行動力と度胸があるだけでは、危険なところに言っても、良質なノンフィクション本を書くことはできない。
まず、高野秀行氏は、語学がめちゃくちゃ堪能だ。
本人が認める言語マニアであるのみならず、おそらく、言語に対して天才的な能力を持っている。仏文科を出ているが、英語と中国語はもちろん、現地のマイナーな言葉さえも積極的に習得し、使いこなす。
数多くの言語を習得すれば、他との関連や類推などで新しい言語の習得が簡単になるらしいが、そのような「言語の達人」という領域の能力があるように思う。
また、作家としては必須といえる文章力も、かなりのものだ。本の構成に引き込まれるし、叙情や空気感が伝わってくる筆致も、著者がやってきた冒険を読者に追体験させてくれる。
コミュニケーション能力については、やや乱暴で人でなしなところがないとは言えないが、臆さずに色んな人との繋がりを持っていこうとする力強さがある。
もちろん、「ジェスチャーなんかで何となく乗り切ろうとする旅行者」的な底の浅いものではない。「探検にはコミュニケーションが必須」という考え方をしていて、そのために相当な時間をかけて言語学習に取り組んでいる。
また、冒険をするための「人脈」というものを重視していて、現地の知り合いを作る技術なども相当なものだろう。早稲田大学の「探検部」の出身で、似たような冒険をしている仲間とのコネクションもある。
語学と人脈をしっかり押さえてこそ、他の誰にもできないような、波乱万丈の冒険が可能になるのだ。
まあ、自分がここであえて「すごさ」を説明しなくとも、著作を一冊でも読めばすぐにわかることだ。
高野秀行のおすすめ著作は?
「読んでみたい!」と思った人に向けて、おすすめの著作を紹介していきたいと思う。
高野秀行は、本当に膨大な数の著作があるのだが、「これなら間違いない!」という代表作のみをを紹介していく。
アヘン王国潜入記
1998年に出版。自分は本書をキッカケに高野秀行を知ったのだが、「同じ時代の日本人にこんな人がいるのか!」という衝撃を受けた。
ビルマの反政府ゲリラ支配区・ワ州で、武装して麻薬を製造する「少数民族ワ人」。そこに世界初の「外国人」として長期滞在をして、彼らの日常を描くノンフィクション・滞在記。
企画もヤバいが、本人がアヘンを吸って中毒になったり、マラリアで死にかけたりと、著者自体がいろいろとヤバい。
過激なだけでなく、民族研究の視点も素晴らしい。
金も知名度もない若手の時期に、このような試みを自らの意志と野心でやり遂げたということに、心の底から拍手を贈りたい。
西南シルクロードは密林に消える
2003年に出版。間違いなく、著者の代表作の一つとなると思う。
ビルマ北部から、「幻の西南シルクロード」を通ってインドへ。それがどれくらいヤバいことなのかも、本書を読めばよくわかる。
エンタメと旅情に溢れた冒険譚で、とにかく読んでいて楽しい。
世界屈指の秘境に立ち入っていくワクワク感もありながら、少数民族を分析する著者の見識も光る。
わかりやすく面白い「ノンフィクション冒険旅行記」で、高野秀行を知らなかった人の最初の一冊としてもおすすめできる。
そんじょそこらの小説より断然面白い。
イスラム飲酒紀行
2011年に出版。
大の酒好きの著者だが、酒が禁じられているイスラム圏の飲酒事情を描くルポタージュ。
本にできそうな面白げな企画を打ち立ててから異文化に分け入っていくやり方は著者の得意技の一つだろう。
高野秀行の著書の中では、比較的のんびりとしているが、それゆえに楽しく、酔ったような気分で読める。
日本人とは関わりの薄いイスラム圏の日常に触れることができる良書。
謎の独立国家ソマリランド
2013年に出版。集大成となる可能性の高い、渾身の一冊。
最もおすすめの著書かもしれない。
様々な賞を受賞し、高野秀行の名前を日本のノンフィクション史に残るものにしたが、もちろん高野秀行氏の功績は「どういう賞を取って本が何冊売れるか」なんてものを超越している。
辺境の独立国を愛する著者が、謎の独立国家「ソマリランド(アフリカ東端部)」に挑む。
単なる「危険なところへ行ってきた体験記」などでは決してない。
フラットな視点と、通奏低音のように流れる経験と知性。
歴史に残るであろう、最高のノンフィクション!
謎のアジア納豆: そして帰ってきた〈日本納豆〉
2016年に出版。衰えることのない知的好奇心と探究心に頭が下がる。
「納豆」と言えば日本の食べ物と日本人は思っているが、アジア大陸には日本人以上に納豆を食べている民族が存在するらしい。
「そもそも納豆とは何なのか?」を探求するために、研究所で菌の勉強にはげみ、あらゆる地域を駆け回る。
行動力と見識に裏打ちされる、食文化アドベンチャー。
ワセダ三畳青春記
2003年に出版。著者の大学時代を描く、自伝的な小説。こういう本も出している。
すばらしい青春群像劇で、定期的に読み返したくなる。
「早稲田の良いところ」を凝縮したようなテキスト。「いい時代というのはあったんだね」という気がする。
京大を描いたのが森見登美彦なら、早稲田は高野秀行だ。
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