話題の中国ハードSF、『三体』の正直な感想と解説【レビュー・ネタバレ配慮】

話題になっている劉慈欣 『三体』を読み終えたので、レビューをしたい。

  • 前半は、読もうかどうか迷っている人に向けて、ネタバレに配慮した小説のレビュー。
  • 後半は、すでに読んだ人に向けて、あらすじや解説をふくめた正直な感想を述べる。

途中で引き返せるようにちゃんと注意を入れるので、気になっている人も、すでに読破した人も、見ていってほしい。

劉慈欣『三体』のネタバレ無しレビュー

『三体』は、中国では2006年から連載が始まり、2008年に出版されている。

英語版は2014年に発売されていて、日本語版は2019年と、日本はわりと翻訳が遅かったほうと言える。

すでに評価が確立されているベストセラーであり、それがやっと日本に入ってきた、という感じ。

『三体』のレビューだが、「読んだよかった!」とは素直に思ったし、知的興奮と感動があった。ただ、読んでいる最中(特に前半)は、特に夢中になれるほどの面白さを感じず、「話題になってるから頑張って読むぞ!」という感じで読破することができた。前半を乗り切れば、後半は一気に読んでしまえる勢いがあるが、SFに慣れていない人だと前半はキツいかも。

いわゆる「ハードSF」というやつで、エンタメ小説基準で言うと、かなり固くて難解な内容。

ミステリー仕立てだし、「そういうことだったのか!?」と驚くような仕組みになっているが、「わかりやすく面白い」ものではない。

インテリには好かれそうな内容だが、エンタメとして面白いかと言えば、微妙なところだ。

また、「三部作の第一部である」ことに注意が必要。『ロード・オブ・ザ・リング』で言うと「旅の仲間」みたいな感じで、「これからどうなるんだろう?」という感じで終わる。

ザッカーバーグやオバマが絶賛しているということで話題になっているが、英語版はすでに続編が出ていて、第一部だけでなく、続きも読んだ上での評価かもしれない。もちろん第一部も「すごい!」というクオリティではあったものの、本当に評価されている部分は、まだ日本語訳では読めない可能性がある。

正直、一般のエンタメよりも、SFの設定と文学性が全面に出ていていて、読みやすいわけではないし、読書に慣れていない人は、途中で挫折してしまう可能性もある。

ただ、ここまでのベストセラーが日本に翻訳されてやってくる、というのは、数年に一度くらいの現象だし、乗っかっておくのは悪いことではない。

得られるものは多いし、話題についていくという意味でも、読んで損をする内容ではない。

知的好奇心を読書に求めている人には、特におすすめできる。

「これがSFか……!」という感じの、稀有な体験ができると思う。

 

以上、ここまでが、ネタバレに配慮した『三体』のレビュー。

 

まだ読んでない人は、これ以降は読むのはやめてほしい。

 

 

『三体』に関しては、ネタバレを含めないと語れないことは多すぎる。

では以下、ネタバレありの『三体』のレビューなので、未読の人は気をつけて!

 

 

『三体』のあらすじと、疑問(ネタバレ有り)

複雑なストーリーなので、読んだけど内容がおぼろげという人向けに、ざっと「あらすじ」を振り返ろうと思う。

(あらすじをしっかり覚えている人は読まなくていい。)

  • 「葉文潔」というキー人物がいて、彼女は文化大革命で物理学者の父親を殺される。それが彼女に深い影を落とす
  • 文潔は、「紅岸基地」という異星人を探すための共産党直属の極秘の基地に配属されるが、そこで宇宙人からの電波を受け取る
  • 宇宙人は「三体」という世界で発展してきた「三体星人」で、地球よりも科学がずっと進んでいて、帝国主義的
  • 文潔は平和的な三体人から「返信したら我々は攻めてくるだろうから、返信するな!」という信号を受け取ったのだが、自身の独断で「地球に侵略してくれ!」と返信する
  • 「地球三体組織」という、人類に絶望した人を集めて、三体人に地球を渡そうとする動きが始まる。文潔はそのリーダー。
  • 三体人は、自分たちが地球に到着する450年後までに、地球の科学文明が進歩することを恐れ、「智子プロジェクト」によって、基礎科学の発展を邪魔する。また、「地球三体組織」が優秀な科学たちの暗殺を始める。
  • 「地球三体組織」は、VRオンラインゲーム「三体」を運営して、優秀な人間をリクルートしようとする
  • 主人公「汪淼」は、VRゲーム「三体」を進めることによって、「地球三体組織」と接触し、それをキッカケに警察と多国籍軍によって、「地球三体組織」の中枢を制圧する
  • 「三体人」がいずれ地球を侵略しに来るというけど、人類は立ち向かうだろうというところでエンド

時系列を重視した、全体の流れとしてはそんな感じ。

ただ、小説としては、中心人物「葉文潔」と、主人公の「汪淼」の視点が交互に描かれる感じで進んでいく。

文化大革命の凄惨な描写から始まる「文潔ルート」と、地球の物理法則が乱れて科学者が自殺していくというミステリアスな現象を解き明かそうとゲームなどに励む「汪淼ルート」のふたつ。

後半からは、文潔という人物を巡る深い文学性を感じることができて、「いい小説だな」と思えたのだけど、最初のほうが、ひとつひとつのエピソードが興味深い、という感じでもなかったので、全貌がよくわからない序盤は、けっこう読み進めるのに苦労した。

あらすじの大枠としては、読んだ人ならわかるように、非常に面白い!

また、古典物理の重要問題と言われている「三体問題」を、惑星に当てはめて、地球外生物を描くという発想のスケールの大きさがすごい。

ただ、自分が疑問に思うのが、リアリティの面だ。

フィクションである以上は完璧というわけにはもちろんいかないが、SF小説は、科学的な発想やそれをとりまく人間の振る舞いに、リアリティがあるかどうかというのが、個人的には重要な要素だと思う。

中国はともかく、日本やアメリカなどの国は、公的な場面における「公開性」を重視しているので、異世界人との接触があったからといって、それが一部の人たちの間だけで共有され続ける、ということはあり得るのだろうか。そういう人間心理に関して、あまりリアリティのあるものだとは思わないが、それこそが「中国SF」的な想像力なのかもしれない。

また、人類よりも遥かに科学を発展させている「三体人」の文明が、道徳を無視するような冷酷な帝国主義で、自分たちの存続のために宇宙を飛び出さざるを得ず、自分たちのために率直に地球人類を滅ぼそうとするというのが、何か非常にチープな設定のように思えた。

「智子」プロジェクトと言う、何かよくわからない方法で陽子を操作することで、地球側の加速器の研究結果を乱し、地球の科学の発展を止める……というものがあるのだが、自分は物理やSFに特別詳しいわけではないので、それが妥当性のあるものなのか、面白みのあるものなのかよく判別できない。あくまで個人的な感想だが、「トンデモ過ぎて萎える」と感じてしまった。

 

中国的?なSFの想像力と、基礎科学の重視

あらすじは面白いし、文学性も高いと思ったが、「SF」の部分は、個人的には正直そこまで楽しめなかった。

ただ、いろいろと疑問に思うところも含めて、「中国SF」というものに触れるキッカケになり、豊かな読書体験ではあったと思う。

前半は退屈に思うようなところもあったが、後半はとても良く、文章や細かいモチーフなどにも、ハッとさせられることが多かった。

好きな表現などを引用すると、以下

人類文明そのものの欠陥がもたらした疎外の力、より高度な文明への憧れと崇拝、最終戦争後も子孫たちを生存させようとする強烈な本能的欲望、この三つの強大な力によって地球三体運動は急速に成長し、それが注目されたときにはすでに、燎原の火のごとき勢いを持っていた。

「三」というのがモチーフになっているし、『三体』という小説自体も「三部作」になっている。

それが中国的なものなのか、作者の個人的なものなのかはわからないが、社会に対する閉塞的な絶望感を感じるような描写も多かった。

例えば、三体人が地球を攻撃しようとするときに、地球人を分析する場面

ふたつの可能性が生じる。ひとつは、地球人がすべての幻想を捨てて、決戦を挑んでくる可能性。もうひとつは、彼らの社会が絶望と恐怖に支配され、堕落と崩壊に陥るという可能性。これまでに集まった地球文明に関するデータを細かく研究した結果、後者の可能性が大きいと、われわれは判断した

その結果として、三体人は

おまえたちは虫けらだ

という短いメッセージを地球人に向けて送る。

「いや、地球より遥かに科学が発展している文明がそんな短絡的なことする?」「ていうか、科学にバグった結果が現れたとしても、少なくとも地球人は全力でそれを解明しようとするだろうし、むしろ地球外に明確な敵が現れて喜ぶ人とか多そうじゃない?」と思うのだが、それは自分が日本というヌルい環境で育ってきたからで、こういうものにリアリティを感じるのが、中国的な感覚なのかもしれない。

あと、至るところで大絶賛されているが、ちょっと穿った見方をすれば、「インテリ受けするような内容だな」ということは思った。

池井戸潤の小説が「気概のある中小企業」を持ち上げるのと同じくらい、「基礎科学」を持ち上げる内容

「基礎科学こそが人類の柱なんだ!」という強いメッセージがあって、知識層や欧米のリベラルにはすこぶる受けが良さそうだと思った。

そういう部分も合わさって、世界中で非常に高い評価を得ているのだと思う。

知的興奮よりエンタメを求めている人が読めば、ちょっと「思ってたのと違う」という内容かもしれない。

 

以上、『三体』の正直な感想を述べてきた。

まあ色々ふくめて、読む価値のある小説だと思う。

やや不満に思うところもないわけではなかったが、「二部の翻訳が出たら絶対に予約して発売日に読む!」というくらいには、総合的に価値のある本。

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