「飲茶(やむちゃ)」という、いろんなジャンルの知識をわかりやすく紹介する人気作家がいる。最近は『WeTuber』などの漫画の原作もやっている。
自分は「飲茶」さんのファンで、彼の著作は、出版されているものはすべて読んでいると思う。
彼は昔ながらのブロガーでもあって、「茶々な日々」というブログをやっている。面白いのでぜひ読んでみてほしい。
個人的には、彼の著作の中では、この前紹介した『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』と、本書『哲学的な何か、あと数学とか』が傑作だと思う。
どちらも、本命の続編という位置づけの本だが、それゆえに、彼の説明の上手さが素晴らしく発揮されている。
ちなみに、なぜ彼が「飲茶」を名乗っているかは、『史上最強の哲学入門 東洋の哲人たち』を読めばわかる。以前書いたレビューは以下。
そして今回は、数学について綴った『哲学的な何か、あと数学とか』の紹介だ。
「哲学的な何か」というタイトルだが、実質的には数学の本だ。ただ、数学も哲学に通じるところがある。
「フェルマーの最終定理」をめぐる物語
「フェルマーの最終定理」が証明された、という話を聞いたことがあるだろう。
数学が得意なわけではない素人が、このスゴさを理解するのは難しい。どれくらいスゴいのかわからないけど、とにかくスゴいのだろうな……という感じだ。
本書を読めば、その証明の一体何が凄かったのか、どのような壮絶な物語が、ひとつの証明を巡って展開されていたのかがわかる。
これについてもっとも有名な本は、イギリスのジャーナリスト、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』だろう。
これも非常に良い本なのだが、個人的には、飲茶氏の『哲学的な何か、あと数学とか』のほうが、同じテーマを扱いながら、読みやすさ、展開の上手さにおいて、上回っていると思う。(日本語でそのまま読めるのと、翻訳で読むという違いはあれど。)
ただ、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』は、飲茶氏も参考文献として挙げていて、それをベースに、「よりわかりやすく、より親しみやすく書いた」という感じだ。
数式を追わずにスラスラ読める
とても難しい事柄を扱っているはずなのに、ストレスなく、すらすら読めるという点において、とても素晴らしい文章だと思った。
「わかりやすい」というと語弊があるかもしれない。(本書を読んでも、フェルマーの定理の証明部分が理解できるわけではない。)
『ヒカルの碁』とか『アイシールド21』って、囲碁やアメフトのルールを実は良くわかってないけど面白く読めるけど、それに近い。
面白い小説を読んでいるように、ぐいぐい数学の世界に惹き込まれる。
それでいて、「数学の考え方」のようなものに触れることもできるし、数学に興味が持てるようにもなるだろう。
数学に苦手意識を持っている中高生にも読んでほしい本だ。
知性への憧憬と情熱が最高にアツい!
この感動を伝えるのはなかなか難しく、ぜひ本書を読んでほしいのだが、とにかく、めちゃくちゃ熱い内容だ!
数学の美しさ、恐ろしさ、それに取り憑かれた数学者たちの壮大な物語があって、下手な小説や映画なんかよりもずっと感動するノンフィクション。
以下は、著者の引用。
この本の裏テーマは、「何かに打ち込めるものがある人生って(恐ろしいけど)素晴らしい」です。数学のことばかり書かれた本ではありますが、数学者たちの熱い物語を通して、「人間が生きるとはどういうことなのか」という「哲学的な何か」を感じとっていただけたら幸いです。
「どうして世界はこのようになっているのだろう?」と考えたときに、数学って本当に不思議だ。
二等辺三角形の対角や、円周率が、「無理数」という割り切れない数になるとか。「オイラーの公式」では、「自然対数の底」と「虚数」と「円周率」が、どういうわけか綺麗に結びつくとか。
一定の数学力がなければそこにたどり着くことはできないと思っていたけど、本書のような本は、数学の本質的な美しさに導いてくれる。
自分もそこまで数学力があるわけではないが、本当にすらすら読めたし、それでいてめちゃくちゃ感動できた。
知性への憧憬と情熱を感じて、本物の感動がある本だ。数学が得意な人にも、苦手な人にも、おすすめできる。
本書の前に書かれた、『哲学的な何か、あと科学とか』も、面白い。
ただ個人的には、テーマがはっきりしている『哲学的な何か、あと数学とか』のほうが、おすすめ度は高めかな。
できれば両方とも読んでもらいたいが、どちらかを進めるとしたら、自分は「数学」のほうを推す。(『科学とか』のほうは、著者のブログで冒頭部分をけっこう読むことができるので、気になった人はブログを覗いてみるといい。)
『哲学的な何か、あと数学とか』のレビューは以上。
当ブログでは、「おすすめの本ランキング」などの記事も書いているので、よかったら以下もぜひ。
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