「働き方」や「雇用」について考えるためのおすすめ本を紹介【労働問題に関する書籍】

「働き方」「雇用システム」「労働問題」について考えたい人のために、おすすめの本を紹介する。

多くの人にとって身近な問題なので、ツイッターやネット記事などでも盛んに議論が行われているのを見るが、だからこそ、「体系的な知識」を書籍によって学ぶのは重要な意味がある。

身近な不満や問題意識を起点に語るのも悪いことではないが、ちゃんと本を読んで最低限の知識を身に着けたほうが、問題に対する建設的な意見や対応策を出しやすいだろう。

 

日本社会のしくみ 雇用・教育・福祉の歴史社会学 (講談社現代新書)

著者 :小熊英二
出版社:講談社
発売日:2019年7月17日

「これは新書なのか?」ってくらい、めちゃくちゃ分厚い本だが、めちゃくちゃ勉強になる!

「日本人の働き方」のイメージは、「新卒一括採用」「年功序列」「終身雇用」や、「専門性の軽視」「馴れ合い主義」「生産性の低い長時間労働」などかもしれない。これらの「日本の雇用」が、どのような過程を経て、どのように成立してきたのかを、データを提示し、整理しながら論じていく。

なお、「新卒一括採用で年功序列」というのは、大企業にありがちだけど地方などでは全然そんなことはなく、「日本人の働き方」の大部分を占めているものとは言えない。

著者は最初に、「大企業型」「地元型」「残余型」と、日本人の働き方を3つの類型にわけている。「大企業型」しかイメージがなかった自分にとっては、この時点で目から鱗だった。

淡々と事実を積み重ねる厚みと情報量に圧倒される。これ一冊読むだけで、「日本の労働」についてかなり詳しくなれるだろう。「雇用」は誰にとっても重要な問題である以上、社会問題に関する意識が低い人であっても、読んで損したと感じることは決してないだろう。

新書とは思えないほど分厚く、読み通すには骨が折れた。噛み砕いて書いてはいるが、学術書と言っていいように思えるくらいの重量感。

ただ、色んな軽い本に手を出すよりも、これ一冊をきちんと読んだほうが良いと言えるくらい良書。

 

若者と労働 「入社」の仕組みから解きほぐす (中公新書ラクレ)

著者 :濱口桂一郎
出版社:講談社
発売日:2013年8月10日

著者の「濱口桂一郎」氏は、「労働」について研究している著名な研究者。

例えば、欧米は「ジョブ型雇用」で、日本は「メンバーシップ型雇用」という話をよく聞くが、それも彼の著書がベースになっていることが多いと思う。

「なぜ日本の雇用や入社(採用)は、今のような形になっているのか?」が、歴史的な経緯も踏まえ、わかりやすく解説されている。

日本で働く多くの人にとって重要な問題が丁寧に書かれているので、読んで糧にすることができる人は多いと思う。

就活や転職を考えている人に読んでもらいたい。

ツイッターなどを見ると、日本の雇用システムの悪口がこれでもかと書かれているのを目にするが、システム自体には「デメリット」もあれば「メリット」もある。

単に文句をつけるだけでは、ストレス解消にしかならない。そのシステムが成立した経緯と、利点と欠点の両方を知ってこそ、建設的な問題の解決策を考え出せるのだと思う。

 

日本の雇用と中高年 (ちくま新書)

著者 :濱口桂一郎
出版社:筑摩書房
発売日:2014年5月7日

上で紹介したのと同じ著者のものだが、上が「若者向け」であるとするなら、こちらは「中高年向け」。

身も蓋もなく、日本の雇用システムのことがよくわかる。

リストラに悩む中高年の方にとっては喫緊の問題だし、本書を手に取ればものすごい勢いで読み進めてしまうかもしれない。

「正確な視点」と「事実」を示すものなので、疲れた人を慰めるための「希望を持てる話」というのは違うことに注意しよう。読むことで絶望が深まってしまう場合もある。

しかし、日本企業で働く人にとって「知っておいたほうがいい知識」であることは間違いない。「雇用のルール」や「労務管理」について関心と向上心を持つ人は読むべきだ。

中高年のみならず、「働き方」や「雇用」に関して興味のある人全員におすすめできる良書。

 

労働法入門 新版 (岩波新書)

著者 :水町勇一郎
出版社:岩波書店
発売日:2019年6月21日

「日本人はもっと労働法を学んだほうがいい!」ということはよく言われるが、専門書を紐解く余裕は普通の人にはなかなかないし、ネット上の記事で勉強してもちゃんとした知識を得づらい。

労働法の基礎知識について学ぶためには、「水町勇一郎」著の本書がおすすめだ。

法律を学ぶことは、制度を学ぶことでもある。

日本の労働法の特徴や概要、海外の労働法との比較など、様々な重要な観点が、的確にまとめられた良書。

読みやすくてわかりやすく、要点がしっかりまとめられているので、法律を学んだことがない人でも興味深く読み進められる。

雇用や労働問題について語る際にも、本書で書かれている知識はほぼ必須と言える。

「ある問題があって、会社を告発したい!」という人のための実用書ではないので、現実的な問題を抱えている人は、残念ながら労基に行くか弁護士に相談するというのが推奨される手段となる。

ただ、法律をどういう形で使うにしろ、基礎的な知識は重要なものだし、そのスタートとして本書は非常におすすめできる。

 

なぜ共働きも専業もしんどいのか 主婦がいないと回らない構造 (PHP新書)

著者 :中野円佳
出版社:PHP研究所
発売日:2019年6月25日

「女性」に焦点を当てて、日本の雇用システムの問題と矛盾に切り込んでいる。

「労働」だけでなく、「家事」や「子育て」といった問題も組み込んで論じているのが特徴。

女性である著者が、自分の経験も踏まえて執筆し、本書によってジャーナリズム賞も受賞している。

男性の労働者こそ頭に入れておきたい話が多い。

データを重視しているが、一方で著者の経験とインタビューにも比重が置かれていて、上で紹介した分析的な本と比較すると、やや信頼性に乏しい印象は否めない。

やや他責的なところが強く、分析の精度にも疑問の余地はあるかと思われる。

しかし、マイナス点を差し引いた上でも、重要な視点を数多く提供してくれているので、一読の価値はある。

 

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した~潜入・最低賃金労働の現場~

著者 :ジェームズ・ブラッドワース
翻訳者:濱野大道
出版社:光文社
発売日:2019年3月30日

「最底辺」の労働の現場に突入した、英国ジャーナリストの潜入ルポルタージュ。

「アマゾンの倉庫」「ウーバータクシー」「訪問介護」「コールセンター」といった仕事を、自ら体当たりで体験し、実態を明らかにしている。

消費社会における、便利なサービスの裏側を、これでもかと描き、考察を加える。

著者は、安易に過去の「過酷な労働」のイメージを語っているわけではない。むしろ現代の仕事は、最底辺のものであっても、「最低限の配慮」はなされている。

昔の底辺労働(炭鉱や工場)のように、運が悪ければ怪我したり死んだりする、ということはない。むしろ、アマゾンの倉庫などは、徹底的な安全管理がなされている。しかし、だからこその希望のなさ、尊厳の剥奪、絶望感が浮き彫りになり、それをしっかり考察し記述している著者の知的能力の高さが光る。

知的訓練をしっかり積んだジャーナリストが、体を張ったからこそ可能になった良書。

本書を読んでいる感じでは、日本よりイギリスのほうが状況は過酷と思われる。移民労働者問題についても勉強になる。

 

隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働

著者 :ルトガー ブレグマン
翻訳者:野中香方子
出版社:文藝春秋
発売日:2017年5月25日

「人間の労働」と「AIの誕生」の関わりを捉えた本。

オランダの若手天才学者が、人間がAIとの競争に敗れていく未来を予測し、その対策を打ち出す。

「AI(人工知能)」と「BI(ベーシックインカム)」は、日本ではまだそこまでうるさく言われていないかもしれないが、世界的にはセットで言及されることが多いテーマだ。

多くの仕事をAIが奪えば、人間の仕事の総量は減るし、新しい仕事が誕生しても、適応できる人とできない人とで、より大きな格差が生じる。それを解決するには、ベーシックインカムしかないのではないか、という主張。

日本人の多くの人にとって聞き慣れない議論かもしれないが、本書はその理屈がちゃんとわかるように書かれている。

「ブラック労働」や「待遇格差」などが日本では注目されがちだが、労働問題を語る上で、「AI」と「BI」は避けて通れない話題になっていく予感がする。

これからの労働問題を語る上では、本書の内容くらいはちゃんと頭に入れて置かなければならないだろう。

 

ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図

著者 :リンダ・グラットン
翻訳者:池村千秋
出版社:プレジデント社
発売日:2012年7月28日

ロンドン・ビジネススクールの教授であり、経営組織論の専門家「リンダ・グラットン」が、未来の「働き方」を予想する。

出版されたのが2012年で、2025年の未来を予想した本なのだが、今読んでも勉強になる部分が非常に多い。

「テクノロジーの発展」「グローバル化」「人口構成の変化と長寿化」「個人、家族、社会の変化」「エネルギーと環境問題」、といったファクターが、「労働」と「雇用」にどのような変化を与えるのか?が書かれている。

「現状の分析」から「妥当な予測」が書かれているので、数ある預言書と違って色褪せることがない。社会全体の変化を俯瞰することができる。

とは言え、現時点から見てやや古びていると感じる部分がないわけでもなく、「やはり時代はすごいスピードで変化しているのだな」と感じさせられる。

読みやすく、わかりやすいのが利点だが、すでに関心を持っていろいろ勉強している人からすると、内容はやや薄く感じるかもしれない。自己啓発っぽい部分を嫌う人にはおすすめできない。

 

 

紹介は以上になる。

当ブログでは、「政治」を学ぶためのおすすめ書籍や、「経済」を学ぶためのおすすめ書籍などの記事も執筆しているので、よかったらそちらのほうも参考にしていってもらいたい。

「政治」を学ぶためのおすすめ本を紹介【国内政治・政治学・政治史】

2019.07.19

「経済」を学ぶためのおすすめ本を紹介【経済学】

2019.07.20

 

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