「文化資本」という言葉を聞いたことがあるだろうか?
よく新聞やウェブ記事で使われる言葉なので、よくわからなくて調べてここにたどり着いた人も多いだろう。
「文化資本」とは、なかなか難しい概念なのだが、今の社会を考える上でも非常に重要なものと言える。
今回は、「文化資本とは何か?」を、専門でない人にもわかるように解説し、また「文化資本を獲得するための方法」も教えようと思う。
目次
文化資本とは何か?
「文化資本」というのは、フランスの社会学者ピエール・ブルデューが提唱した概念だ。
社会学の学術用語あり、一筋縄では行かない難しい概念なのだが、それが学術的な知識のない人にも当たり前のように使われているのは、その言葉がそれだけ重要なものを示しているからとも言えるだろう。
ちなみに、『ディスタンクシオン』というブルデューの著書に詳しく書かれている。
ものすごく長い上に難解な本だが、挑戦してみてもいいかもしれない。
実際には、「文化資本」の話は、『ディスタンクシオン』に出てくる長大な考察の一部に過ぎないのだが、社会を考える上でものすごく重要な視点なので、現在も「文化資本」という言葉は頻繁に使われる。
文化資本のざっくりとした説明
ブルデューの言ってることのエッセンスを要約するならば、
お前ら、「資本」って言うとお金のことだと思ってるだろうけど、「お金(通貨)」だけが「資本」じゃないよ! 「資本」は様々な形に姿を変えるんだよ!
ということになる。
多くの人が「資本」という言葉でイメージするのは、銀行預金や、不動産や、株や証券などの金融資産だろう。
ブルデューが指摘したのは、「資本」というものは、お金というわかりやすい指標だけにとどまらず、例えば「文化資本」になって、姿形を変えるのだということ。
「文化資本」は、ざっくり言えば、家庭環境、教育、技能、学歴などのことだ。
良い大学を出て高いスキルを持っているエリートは、たとえ貯金の金額が少なくとも、その気になればたくさんのお金を稼いで資本を獲得することができるだろう。彼には「文化資本」があり、「文化資本」は「経済資本」に換金することができるからだ。
ブルデューは著書で、「経済資本(お金)」以外にも、「文化資本」や「社会関係資本(わかりやすくいえば人脈のこと)」があることを指摘して、それらがどのような関係を持っているのかを論じている。
『ディスタンクシオン』における「文化資本」の内容をそのまま日本に当てはめることはできない
ブルデューの著書では、概念の提唱だけでなく、統計なども駆使して、かなり詳細に社会が分析されている。その手法も優れたものなので、『ディスタンクシオン』などの著書を読む価値は十分にあるだろう。
一方で、ブルデューが調査対象としているのは60年代頃のフランスなので、それをそのまま日本に当てはめようとするのはナンセンスだ。
(当時の)フランスは日本よりずっと階級社会で、やっているスポーツによって年収が全然違う、みたいな社会。
「サッカー部とテニス部は将来的にどっちが年収多いの?」と聞かれても、日本人からすればよくわからない質問だが、当時のフランスなら答えは明白だ。
階級によって、読む新聞も、見る映画も、好む娯楽も違う。
日本は、少なくとも一時期は、「一億総中流」「世界で最も成功した共産主義国」と言われたくらい、国民の平等を達成した国なので、階層によって趣味や娯楽が違うという感覚が理解しにくいかもしれない。
ブルデューが描いた当時のフランス社会は、良いポジションを手に入れる上で、「文化資本」が決定的に重要になってくる国だ。例えば大学入試なども、上流階級の趣味を持つ人がものすごく有利なように作られていた。(今のフランスもある程度はそうかもしれない。)
日本の入試システムは、詰め込み教育と批判されることもあるけど、貧乏な出自でも猛勉強すれば最高ランクの大学に行くことができるとった点では、非常に優れている。ブルデュー流に言えば、日本は「文化資本」と「学歴資本」がかなり分断されているからだ。実際には、日本でも良い大学に入るためには親の「経済資本」が大事だし、「文化資本」もそれなりには関わってくる。ただ、その程度はフランスよりはずっと低い。そのため、日本人の読者は『ディスタンクシオン』を読んでもあまりピンと来ないかもしれない。
日本では、幼少期からバレエをやっていたり、美術館めぐりをしていて、その方面の知識や感性を鍛えた子供が、受験や出世で露骨に有利になるというわけではない。つまり、日本は比較的「文化資本」を他の資本に変換しにくい社会なのだ。これはこれで、悪いことではない。
ブルデューの詳細な分析は、日本にそのまま当てはめるのは難しいが、それでも、根本となっている概念は非常に重要。
ピエール・ブルデューは20世紀最高の社会学者の一人と言われているので、気になった人は挑戦してみてもいいかもしれない。いきなり著作を読み始めると心が折れるだろうから、解説書から読み始めることをおすすめする。
むやみに税金を課すとどうなるか?
「文化資本」の考え方を応用してみる。
ブルデューは、「文化資本」など、「経済資本」以外の資本を「隠された資本」としてその正体を暴いた。
「資本」という言葉から「経済資本」しかイメージできないのは、危険なことなのである。その理屈に従えば、税金をかければかけるほど、国は国民から資本を引き出せることになる。
しかし、「経済資本」への課税が続くと、人は「経済資本」とは別の形の資本を重視し始める。学歴や趣味や文化や人間関係を「資本」に変換し、政府や弱者には把握できない「資本」を持ち始めるのだ。「文化資本」や「社会関係資本」に対しては、課税することが難しい。一方でそれらの資本は、やろうと思えば「経済資本」に変換することが容易なので、数字では把握できない形で格差が広がっていくのだ。
ある意味で、「経済資本」が重視される社会は、「お金」という平等な指標が信頼されている、フェアで優しい環境とも言える。
政府が過剰な増税をして再分配を重視すると、成功者は経済資本以外の「文化資本」に力を入れ始め、文化資本は親から子に無税で受け継がれるので、階層が固定化される。ヨーロッパでその傾向が顕著なことからもわかるように、「文化資本」偏重の行き着く先は階級社会なのだ。
文化資本を手に入れる方法
個人レベルで見れば、「文化資本を稼いでいく」というスタンスは、なかなか良い戦略ではあると思う。
特に累進課税が激しい日本では、年収2000万を超えれば、フリーランスならば半分近くが税金で持って行かれる。年収1000万でも、3割以上は税金でとられる。
このような状況下では、「文化資本」をまったく無視して「経済資本」をひたすら獲得しようとするよりも、「文化資本」を充実させていく戦略に舵を切ったほうが効率的なのである。
ざっくり言うなら、
- お金を使わずとも楽しく過ごすことができる
- その気になればお金を稼ぐことができる
という能力を鍛えるのが、「文化資本を稼ぐ」ということだ。
例えば、文化資本を持っていない貧乏人は、節約するということが上手にできず、コンビニ弁当などを買ってしまう。また、娯楽も、パチンコなど、お金を使うわりに満足感を得られるとは限らないものにのめり込んでしまう。
文化資本を持っている人は、節約しながら満足感のある食事をできるし、読書など、お金がかからないけど深い満足感を得られる趣味を楽しめる。
文化資本があれば、経済資本を使うのとは別の形で、自分の生活を豊かにしていくことができる。
ギークハウスなどのシェアハウスを経営していた、元「日本一有名なニート」で知られる「pha」さんという方がいる。
この人は、経済資本をあまり持っていなくても、「文化資本」や「社会関係資本」を稼ぎまくっているので、実質的にはそこそこの金持ちと言えるだろう。
文化資本を意識することのメリット
貯金、株、不動産、ビットコインなどに浮かれている人は、資本の種類は経済資本だけではないことを認識したほうがいいかもしれない。
「文化資本」を持っている人は、仮に一文無しになったとしても、貧窮することはない。
たしかにお金は平等だし素晴らしいが、経済資本を稼ぐことのみに集中するのはリスクが高い。ある程度稼げるようになってきた人は、「文化資本を稼ぐ」ことを意識したほうがいい。
「文化資本」という概念を意識するだけでも、今後とるべき戦略が変わってくる人もいるだろう。
読書で教養を身につけるというのもおすすめ!
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