美術を題材にした傑作漫画『ブルーピリオド』の感想&レビュー【山口つばさ】

今回は、「月刊アフタヌーン」で連載中、「山口つばさ」の漫画『ブルーピリオド』の感想&レビュー

1話を読んだ時点で「なんだこの漫画すげえ!?」となったけど、今や「美術系の漫画と言えばコレ!」という地位を確立している。

とにかくクオリティがめちゃくちゃ高い!

絵が上手で表現が凝ってるのはもちろんのこと、漫画の中に、実際に色んな人が描いた絵(作品)が出てきたりと、「週刊誌では絶対にできないクオリティだな」と思う。もちろん、月刊誌でも十分すぎるほどスゴい。

玄人ウケする漫画というわけでもなくて、むしろ美術に今まで興味がなかった人にこそ読んでほしいような名作だ。

まだ連載中だが、最近の漫画の中では特におすすめ!

「美術を題材にした漫画」というハードルの高い試み

『ブルーピリオド』は、高校2年生の主人公が、「ふとしたキッカケから東京藝大を目指す」という内容だ。(「東京藝大」は、芸術系の東大みたいな位置づけの、超難関大学)

「漫画」をテーマにした漫画はたくさんある。作者としても、自分の経験したことを描きやすいからだ。

でも、「美術」をテーマにした漫画というのは、今まであまりなかったし、そもそもめちゃくちゃハードルが高い。

例えば、天才作家とか、天才音楽家を、漫画で表現するというのは、簡単なやり方はそれなりにあると思う。天才っぽい演出をすればいい。

あるいは、小説の中で、天才美術家を描写するのも、そんなに難しいことではないかもしれない。

でも、漫画の中で美術の天才を描こうとするなら、その美術作品を「描かなければならない」ので、ハードルが高い。

『ブルーピリオド』は、美術の天才が出てくるというわけではないのだけど、トップクラスに絵の上手い美大受験生たちを描く内容なので、並大抵の画力では太刀打ちできないテーマだと思う。

作者の画力がめちゃくちゃ高いのに加えて、協力者を募って作中人物の作品を描いてもらっているという手の込みようだ。

 

作中に、それぞれの登場人物が描いた絵が出てきて、それを講評したりという、すごく手がかかっている豪華な漫画なのだ。

自分は美術系のことをよく知らなかったけど、「美大受験ってこんな感じなのか!」という新鮮な驚きに溢れていたし、この漫画がキッカケで、「絵を鑑賞する」ということに対しての意識がけっこう高くなったと思う。

「ねとらぼ」に掲載されている、『ブルーピリオド』作者と画家の「中島健太」さんの対談によると、作者の「山口つばさ」さんは藝大の油画専攻だったらしい。

実際の美大受験の過酷さや、藝大の内実を知っている人でなければ、『ブルーピリオド』のような漫画は描けないだろう。

ただ、藝大って、漫画を描いてたりすると、「野に下った」と言われる世界らしいね。

対談を読むと、東京藝大を出ても、ほとんどの人がまともに食えてないらしく、すごい世界だと思う。大学の博士課程より過酷なんじゃないだろうか。

作者は対談で、

今はとにかく美大受験を描いていますが、本当は美術界の漫画をやりたいんです。美術にはすごくクローズドな部分があったり、学校教育から授業時数が削減されたりして、知る機会があまりない。だからこそ手軽にかつ体系的に手に入れられる手段があればいいなと。

と言っている。

現段階では、主人公が美大に合格するかどうかはまだわからないが、もし受かったとしたら、「その先」がめちゃくちゃ気になる!

 

主人公が人間として面白いし、魅力的

色々とスゴい漫画なので、「とにかく読んでくれ!」って感じなのだけど、個人的に特に好きなところを挙げるなら、主人公のキャラがすごく面白いと思う。

普通、美術系の漫画と言えば、ちょっと凹凸があるような、欠陥を抱えているけどそれが武器になる……みたいなタイプがむしろオーソドックス。

でも、『ブルーピリオド』の主人公「矢口」は、DQNだけど勉強もできて、コミュ力の高いリア充。そんな、大天才というわけではないけど、何でもできるタイプの「矢口」が、美術に「アツくなる」感覚を覚えて、藝大受験を目指す。

美大を目指す友達に「君は持ってる人なんだから、なんで美術なんてやるの?」みたいなことを言われて傷ついたりと、王道ではないアンチヒーロー的なんだけど、逆にリアリティがある。美術漫画とか関係なく、こういう人物を描写できるのはすごいことだと思う。

個人的には、かなり好きなタイプの主人公です。

 

作者のインタビューによると、美大にはDQNタイプがわりといるのだけど、実際にはそういうイメージがなかったから描いたとか。

 

日本人の美術リテラシーを引き上げる漫画になりそう

日本はアート市場がないと言われるが、「描くこと」に対する一般人の意識はかなり高い方だと思う。

漫画大国だし、普通の子供が普通に漫画の模写とかするくらいには、「描くこと」が浸透している。

漫画のすごいところは、色んな価値観とかリテラシーを、わかりやすく伝えてくれるところだ。『ブルーピリオド』は、読む人に美術への興味を持たせ、美術リテラシーを引き上げてくれる漫画だと思うので、もっともっと話題になって欲しい。

同じ美術系の漫画で人気の高い、広告代理店などを舞台にした『左利きのエレン』という作品があるけど、これは「漫画的なデフォルメ」が強く働いた作品だと思う。一方で、『ブルーピリオド』は、非常に丁寧な、リアリティ重視の漫画で、小説のような読み心地さえある。

とにかくクオリティが高いし、美術に対する見識と実力を持った作者が、漫画業界に参入してきてくれたことに感謝したくなる。

絵やイラストが好きな人、描くことに興味がある人には、特におすすめしたい漫画だ。

 

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