「作曲をやってみたい!」「音楽に興味がある!」という人は少なくないだろう。
「頭の中になんとなく音楽が浮かぶ」「鼻歌でたまにいい感じのやつができる」のだけど、それを曲という形にする方法が思い浮かばない、という人も多いらしい。せっかく良いメロディが浮かぶのに、それを形にできる手段を持っていないのはもったいない。
もし自分がふと思いついた神曲を何らかの形にして、投稿して多くの人の耳に届けることができれば、間違いなくあなたの人生はそれまでよりもずっと豊かなものになる。
今回は、曲を作って人に聴かせるレベルまで持っていくために、何をしなければならないのかを、音楽に詳しくない未経験者に向けて解説していく。

作曲するために知るべき基礎中の基礎
まず最初に、一般的に「曲」というものが、どういう要素で構成されているのかを知る必要がある。
基本的な用語や概念を知らなければ、「何がわからないかもわからない」状態なので、まずは以下の用語を理解して覚えよう。
メロディ
歌謡曲(ポップソング)、ボーカロイド曲、ゲームミュージックなどの大衆的な音楽において、最も重要なのが「メロディ」だ。「旋律」とも言う。
「音の高さや長さが変化しながら連続していくこと」を一般的にメロディと言う。
これに関してはあまり説明はいらないだろう。何か知ってる曲を口ずさんでみれば、それがメロディだ。「歌詞」はメロディに乗せる。
ふいに良いメロディが思い浮かんだら、それを「曲」という形にしたくなるだろう。でも、実は音楽はメロディだけで構成されているわけじゃない。作曲をしたいなら、後の「コード」という概念を理解する必要があるんだ。
コード
音楽を知らない人が最初に理解すべきなのは、「コード」だ。
「コード」は、メロディと一緒に奏でる伴奏で、複数の音を同時に鳴らすことを言う。「ハーモニー」や「和音」とも言うぞ。
コードは、作曲ではなくてはならないほど重要な概念だ。曲をアカペラで歌うこともできるけど、コードがあるのとないのとでは、曲を聞いたときに受ける印象が全然違う。ほとんどの場合において、コードは必須と言えるだろう。
実は、音楽をまったく知らない人でも、脳内で曲を作ったり思い出して再生するとき、メロディと同時にコードを鳴らしているらしい。
コードを理解して使えるようになることが、音楽初心者脱出への第一歩となるだろう。
なぜコードが必要なのかと言うと、「音は重なり合うことによって美しく聴こえるもの」だからだ。コードの知識は、後述するが、「音楽理論」というやつを学ぶことで理解できるようになっていく。
リズム
曲はメロディとコードによって構成されるが、「リズム」も同じくらい重要とされている。リズムは「律動(りつどう)」とも言う。
リズムには、メロディやコードのような「音階」の概念はない。特別な勉強をせずとも、人は生まれつきリズムを扱うことができる。
曲を作る際には、「泊」や「拍子」や「テンポ(BPM)」と言った概念を理解しなければならないのだが、特に難しい話はない。
実際には、メロディを作った時点でリズムも作れている。ただ、ほとんどの楽曲では、ドラムなどの打楽器でビートを刻むのが基本で、そのリズムの作り方によって曲の印象はガラッと変わる。作曲をする上で、リズムを意識して作り込む工程はほぼ必須だ。
西洋音楽では、「メロディ」「コード」「リズム」が、音楽を成立させる三要素と言われている。まずはこの3つを作る必要があることを意識しよう。

音楽理論
曲を完成させるためには、メロディとコードとリズムを作らなければならない、ということがわかったところで、「どうやってそれを作るの?」という話になる。
そこで学ぶべきなのが「音楽理論」だ。
基本的に、作曲をする上で「音楽理論」の知識は必須だ。ただし、それほど深いところまで理論を理解する必要はない。初歩的なところさえ押さえれば、すぐに作曲を始められる。
音楽理論を学ぶと、「音階」や「キー」や「スケール」という概念が出てくる。これを理解することで、メロディとコードを組み合わせれれるようになる。
また、コードには「トニック」「ドミナント」「サブドミナント」という分類があり、並べやすい順番があるといった法則を押さえておけば、作曲がやりやすくなる。
そういったことを理論的に学んでいくのが「音楽理論」だ。
初心者にとってはハードルが高く思えるかもしれないが、曲を作れる最低限の音楽理論の段階では、それほど難しいことはやらない。

音楽理論の大まかな考え方
音楽理論は、優れた曲を後から分析して、良い曲を作る方法をノウハウ化したものだ。
メロディとコードを組み合わせた曲は、必然的に複数の音を同時に鳴らすことになる。音には、同時に鳴ると気持ちよく聴こえる組み合わせと、不快に聴こえる組み合わせがある。前者を「協和音」と言い、後者を「副協和音」と言う。
基本的に作曲をする上では、「協和音」を選び、「不協和音」を避けるように作っていく。といっても決して難しいことではなく、「キー」や「スケール」の決まりごとを守れば、気持ちよく感じる音のみで曲を作れるようになる。
がむしゃらに良い響きの音を探そうと試行錯誤するよりも、「不快な音を鳴りにくくする約束事」を最初に学んだほうが良いというわけだ。音楽理論は、曲を作ろうとするときに頼りになる指針のようなものなのである。
「音楽理論は学ぶ必要がない」と主張する人の意図
「音楽理論なんて学んでも意味がない」「音楽理論はオリジナルな発想の妨げになるので有害」という人もいるようだ。
たしかに、プロのアーティストでも、「まったく音楽理論を学んだことがない」という人もいる。
ただ、そのような人たちが言う「音楽理論」と、初心者にとって必要な「音楽理論」が同じものなのかどうかは疑問だ。
「音楽理論」と呼ばれるものには、ざっくり分けて
- 曲にコードを合わせられるようになる「最低限の音楽理論」
- 複雑なコードを論理的に組み立てられる「上級レベルの音楽理論」
がある。
「音楽理論は必要ない」と主張する人は、後者のことを言っている場合が多い。ちなみに俺も、「上級レベルの音楽理論は特に必要ない」と思ってる。ただ、前者にあたる、「最低限の音楽理論」は、作曲をしたい初心者にとっては必須だろう。
「最低限の音楽理論」は、楽器をある程度練習したことのある人なら、ほとんど常識として理解できることなので、そういった人たちが「音楽理論なんて必要ない」と感じてしまうのは無理もない。
しかし、この記事がターゲットとしている「あまり音楽に詳しくないけど作曲をしたい」という初心者ならば、まずは音楽理論の基礎的なところを理解するのが王道と言える。せっかく体系化されているノウハウがあるのだから、それを学ばない手はない。
音楽理論の常識的な考え方は、理論をまったく学ばなくても、試行錯誤していればなんとなく理解できてくることなのだが、普通に音楽理論をお勉強したほうが絶対に効率的だ。
座学っぽいことに極端なアレルギーがある人以外は、素直にお勉強しよう。
※現在の音楽理論の体系が、音楽というものを一面的にしか捉えていない偏ったものであるという意見にも一理ある。だが、それは初心者が考えるべきことではないので、とりあえずは素直に学んでおくのが吉だ。

音楽理論の学習の仕方
音楽理論の学び方だが、数学や英語などの学校の勉強とはやや種類が違うので、注意が必要だ。
手元に、キーボード系の楽器か、パソコンにつないだMIDIキーボードを用意するのが望ましい。
音楽理論の学習は、実際に音を出して確かめながら、自分の「耳」で納得していく必要がある。

作曲に必要な機材
作曲には機材が必要だ。どうしてもある程度のお金はかかるので、ひょっとしたら初心者にとっての一番のハードルはここかもしれない。
以下、どういう機材を揃えなければならないのかを解説していく。
パソコン
YouTubeやニコニコ動画やSoundCloudに投稿する水準の曲を作りたいのであれば、パソコンによる作業環境は必須だ。
最近ではスマホやニンテンドースイッチなどのゲーム機で作曲できるソフトなどもあるようだが、それなりのクオリティのものを作りたいのであれば、パソコンは絶対に必要。
ちなみに、パソコンで音楽を制作することを「DTM(デスク・トップ・ミュージック)と言う。
必要なパソコンのスペックだが、使用する音楽ソフトや音源などによって異なるので、一概には言えない。高性能なパソコンであるほど快適に作業できるが、音の良し悪し自体にはパソコンのスペックは関係ない。
DAW(ダウ)
DAW(ダウ)とは、「Digital Audio Workstation」の略で、音楽を作るためのプラットフォームになるソフトウェアだ。DAW(ディーエーダブリュー)と呼ぶ人もいる。
パソコンで音楽をやりたいのなら、DAWのインストールは必須だ。DAWは音楽制作の作業台(ワークステーション)の役割を果たす。
録音した「声」や「ギター」などの音は、DAW上で編集する。
「初音ミク」のようなボーカロイドソフトや、ギター音源、シンセサイザーのようなソフトウェアも、基本的には「DAW」の上で起動して使う。
DAWはそれなりのお値段がするが、買った時点で、楽器ソフトがたくさん入っている。だから、DAWさえインストールすれば、作曲を始めることが可能だ。
「DAW」にはいくつか種類があって、「Cubase」「FL STUDIO」「Studio One」「Pro Tools」「SONAR」「Logic」などがメジャーだ。基本的な使い方はどれも同じ。
無料でインストールできるDAWもあるが、曲を最後まで完成させたいのであれば、有料版のダウンロードはほぼ必須。
DAW上で起動する個別音源
「piapro」のボーカロイドである「初音ミク」や、「native instruments」のシンセサイザーである「MASSVE」など、様々な音源ソフトがある。そのほとんどは、DAW上で起動する。
「VST(virtual Studio Technology)」という標準規格があるので、「この音源を使うためにはこのDAWじゃないといけない」ということはない。メジャーな音源ならば、どのDAWでも起動できる。
DAWに最初から備わっている音源では物足りなくなったときは、個別の音源を購入するか検討する段階に入る。個別音源もそれぞれけっこういい値段がするので、「あれも欲しいこれも欲しい……」となっていくとキリがないのだが、初心者のうちは考える必要はない。
個別に音源を買わずとも、DAWに最初から入っているプリセット音源のみで、ちゃんと曲は作れる。だから、個別のソフト音源を買うなら、まずはDAWを使いこなせるようになってからがいいだろう。
MIDIキーボード
パソコンで音楽をやる上で、絶対に必要な機材が「MIDIキーボード」だ。キーボード楽器の形をした入力装置で、単体では音が出ない。パソコンに接続して、DAWと一緒に使う。
メロディを入力したり、デジタル楽器の音を確かめたり、コードを合わせてみたりなどの作業は、基本的にMIDIキーボードを使って行う。
ヘッドホン
音楽を作る上で、「聴く」という作業は、最も重要と言っても過言ではない。だからこそ、ちゃんと音を聴くためのヘッドホンは、それなりのものを選んだほうがいい。
音楽を仕事にしている人、特に「編曲」という工程が専門の人は、いくつかのヘッドホンやイヤホンやスピーカーを使って、様々な環境で音の鳴り方を比較検討している。
初心者はそこまでする必要はないが、ちゃんとしたヘッドホンを持っておいて損はない。
ヘッドホンに関しては、SONYの「密閉型スタジオモニターヘッドホン MDR-CD900ST」という、音楽業界では定番の製品がある。
手頃な価格とは言えないが、迷ったのであればこれを買っておけばいいだろう。
オーディオインターフェイス
音楽やDTMに疎い人にとっては耳慣れない機材かもしれないが、パソコンで音楽をやる上で、「オーディオインターフェイス」という機器はあったほうがいい。
パソコンと周辺機器を接続するためのもので、声やギターを録音するマイクや、外付けのシンセサイザーなどをパソコンとつなぐときに使う。
オーディオインターフェイスを使わずに録音した場合、音質やレイテンシー(音の遅れ)が酷いことになってしまう。また、外部から来る音の処理を行ってパソコンの負担を軽くしてくれる効果もある。
パソコンの音源のみで音楽活動が完結している場合でも、スピーカーやヘッドホンと接続するために使う。
安いものではないので、初心者はなかなか手を出しにくいかもしれないが、なるべく持っておきたい機材だ。自分の声などを録音した使いたい場合には必須。
パソコンで音楽をやるために必要な機材まとめ
まとめると、
- パソコン本体
- DAWソフト
- MIDIキーボード
- 高性能ヘッドホン(可能なら)
- オーディオインターフェイス(可能なら)
が、パソコンで音楽を作るために必要な機材となる。
パソコンの価格を除くと、AWがだいたい3万円から6万円(より安いバージョンもある)、MIDIキーボードがだいたい1万円から2万円、高性能ヘッドホンが1万円から3万円、オーディオインターフェイスが1万円から3万円の間くらいの価格だ。
ただ、DTMの練習をするための最低限の機材となると
- パソコン本体
- フリーのDAWソフト
- MIDIキーボード
- 安いイヤホン
となる。パソコンやイヤホンは大抵の人が持っているだろうから、実質的には「MIDIキーボード」さえ買えば、音楽活動を始めることができなくはない。
ただ、それなりのものを作りたいなら、有料のDAWは必須だ。全部フリーソフトで済ますという荒業も不可能ではないが、初心者がそんなことに労力を割くべきではない。

曲ってどうやって作るの?
作曲理論を学び、製作環境を整えたからと言って、音楽が作れるとは限らない。
右も左もわからない初心者からすれば、「音楽を生み出せる」という感覚そのものがよく理解できないかもしれない。
ただ、作曲にセオリーはない。
プロのアーティストも、曲の作り方は様々だ。
メロディを作ってからそこに詩をのせる人もいれば、歌詞を先に考えてそれをメロディにする人もいる。コード進行を先に決めてからメロディを作る人もいれば、リズムから最初に作るという人もいる。
歌詞、メロディ、コード、リズムと、音楽はどの部分から作っても構わないのだ!
ただ、機材の使い方もよくわかっていない初心者は、まずは、頭の中にぼんやりとでも浮かんでいる音を、なんとか形にしてみる作業が必要になる。
自分の頭に鳴っているだけではなく、他人が聴くことのできる「客観的な音」にしなければならない。
口ずさめるのであれば、スマホなどの録音機能で、それを録音して聴いてみるといいかもしれない。それから、音階やコードを割り出し、DAWに打ち込んで、曲として形にしていく作業が始まる。
最初のうちは、スマートな音楽の作り方など考えず、「とにかく形にしてみる」ことが大切だ。
作曲するためには楽器を弾ける必要があるか?
結論から言うと、作曲と演奏の能力はほとんど別物なので、楽器が弾けなくても作曲は可能だ。有名な作曲家でも、楽器が弾けないという人は数多くいる。
一流の演奏家なら作曲もできるといったことは一切ないし、逆もまた然り。基本的に作曲と演奏は別々の技術だ。
ただ、楽器が弾けると作曲をしやすくなる側面はある。特に、ピアノ(キーボード)かギターを演奏できると、コードを弾きながら曲を考えられるようになるので、作曲に大いに役立つだろう。
キーボードやギターは、上手に弾けなくても、基本的な演奏ができるだけで作曲しやすくなるので、練習しても無駄にはならない。
また、デジタル音源での曲作りは、ギターやベースなど弦楽器の音を上手に表現することはかなり難しく、楽器が弾けるのであれば、自分で演奏してそれを録音したほうが良い音を簡単に出せる場合がある。
演奏能力は作曲に必要なものではないが、曲を作ろうとしている人にとって、「楽器を弾ける」というのは大きな武器になる。
作曲は「聴く」ことが大事
少なくとも素人のうちは、作曲する上で最も大事なのは「聴く」ことだ。音楽理論を勉強する目的の一つは、「曲をちゃんと聴けるようになるため」というのがある。
自分が良いと思っているプロの楽曲を聴いて、どのような音が鳴り、どういうコードで、どういうテンポで、というのを分析できるようになると、作曲の能力は向上する。
また、音楽理論を勉強しても、必ずしも音楽理論的に正しいコードだけを選べばいいというわけではない。あくまで音楽理論は指針であり、曲の作り方によっては、音楽理論から外れた音が素晴らし響きを持つこともある。その判断基準は「自分の耳」になる。
「聴いてみて、良いと思えたものが良い」というのが、作曲において最も重要な考え方だ。
理論的に組み立て作ったり、頭の中で良い曲が思いついたりするときもあるが、基本的には、何度も繰り返し曲を聴きながら、泥臭く良い音を探していくというのが、作曲の多くの部分を占める作業だ。
音楽関連の本やサイトなどを見ると、色んなセオリーやノウハウが紹介されているが、最終的なところでは「良い音かどうかを判断する自分の耳が一番大事」ということを忘れないようにしよう。
作曲を上達するためには、理論を勉強したり楽器を練習することよりもむしろ、様々なジャンルの音楽を聴き、良いと思える音を判断できる基準を磨いていくことが重要だ。
初心者が最短で音楽を身につける方法
初心者のうちは、とにかく「形にしてみる」という意識が大事だ。
音楽理論やDAWの使い方など、必要な知識は、それ自体として勉強するよりも、「作りながら必要なことを覚えていく」という意識で取り組んだほうが、ずっと上達が早いだろう。
DAWの使い方などは、本を読んで体系的に学ぶのではなく、そのつど必要なことをググって調べながら覚えるといい。
まずは、好きなアーティストの曲やプロの音源をちゃんと聴いて、自分がどういう曲を作りたいのかなんとなくでも思い描く。そして、それを他人でも聴けるような、具体的な形にしようと試行錯誤してみる。すんなりとはいかないだろうが、脳内の曲を形にしようとDAWをいじっていく過程で、多くのことが身につく。
頭の中で曲が作れない場合は、適当にMIDIキーボードを触って色んな音を出してみよう。やっているうちに良いメロディが浮かんでくる。そのメロディにコードをつけたしたりなどしていくうちに、だんだん作曲のコツがわかってくるだろう。
